ぶらり途中下車の旅 ~先輩編~
涌嶋宏輔(わくしま こうすけ)さん
保健福祉学部 作業療法学科
2020年卒業生
澳门永利皇宫_亚博足彩app_中国体彩网3年4月から保健福祉学部 保健福祉学科 作業療法学コース
(鳥取県 出身)
- インタビュー日
- 2022.11.7
- インタビュアー
- りほ
- インタビュイー
- 涌嶋宏輔(わくしま こうすけ)さん
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では早速インタビューを始めさせていただきます。よろしくお願いいたします。
まず、涌嶋さんが県立広島大学に入学された経緯についてお聞かせください。
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私自身、実はまた来年から県立広島大学大学院の学生になるんですが、大学院と大学の学部では選定する基準が異なるので、今回は学部の選定理由についてお話ししようと思います。
まず、すごく現実的な話になるんですが、私の出身が鳥取県なので、中国地方の国公立大学への進学を考えていました。高校生が大学を選ぶ時、はじめはその大学の偏差値や立地に注目される方が多いと思うんですが、私もまさしくそのうちの1人でした。
次に、中国地方の国公立大学の中から県立広島大学を選んだ理由は、保健福祉学部のある三原市が学業に専念しやすい印象であったこと、かつ大学と地域の繋がりを強く感じられる環境だと思ったからです。
また、県立広島大学のような規模の大学では、他大学よりも学 生と教員の距離が近く、密な関わりを持っていただけるのではないかと想像していたことも、魅力を感じた項目の1つです。
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ありがとうございます。確かに、高校生の時点ではそれぞれの大学の強みや、教授の研究分野などはあまり調べきれないですよね。その分、それぞれの大学の特色として、偏差値や立地のイメージが先行しやすいのかなと思います。
では次に、涌嶋さんはなぜ県立広島大学の中でも作業療法学科に進学しようと思われたんでしょうか?
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私は高校では普通科理系コースに在籍していて、もともと工学部や理学部を目指していました。
高校3年生の12月、センター試験が間近に迫っていた中で、自分が工学部や理学部に進んでいる未来があまり見えなくなってしまって。私はその分野が本当に好きなんだろうか、進学後も熱意を持って学んでいけるだろうかというような揺らぎが生じていました。そんな時、偶然にも職場見学として病院に行く機会がありまして、その時の案内役が作業療法士さんだったんです。その方は価値観がとても多様な方で、「僕は作業療法士だけど、別に作業療法士にならなくても良いんだよ」と言いながら、病院内の様々な場所を案内してくださいました。その日から自分で作業療法士について調べてみたところ、作業療法士の働く分野は、医療機関や福祉施設だけではなく、行政機関、保育所、学校、司法領域(刑務所)、運転免許センター、一般企業など多岐に渡るんだということを知りました。もともと私は色々な事に興味を持つ性格だったので、「作業療法士って面白そう!」と感じ、作業療法学科を目指しました。
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そのような経緯がおありだったんですね。
実は、私も先日病院実習に行かせていただいた時、バイザーの先生から初日に「将来、あなたが言語聴覚士になるかどうかは分からないけど…」と言われたことが、今でもとても印象に残っています。「絶対に言語聴覚士にならなきゃいけないわけじゃないんだよ」というお言葉に、はじめはとても驚きましたが、そのようなお考えの上で言語聴覚士としてご活躍されているということも、大きな魅力の1つなのではないかと感じました。
それぞれの職種や自分自身の可能性を何となく決めてしまうのではなく、幅広い選択肢を比較検討した結果、最終的に作業療法士や言語聴覚士を選ぶという考え方も大切なんだと思います。
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りほさん、今すごく良いことをおっしゃいましたね。そして、私もそのバイザーの先生の考え方にすごく共感します。
私たち作業療法士であれば、“手作業”や“農作業”などの“作業”を用いて治療をする人だと、よく誤解されがちですが、実際には少し異なります。
「作業療法士」は英語で「Occupational Therapist」と表現され、「Occupational」とは「Occupy(時間や場所を占有する)」という語の形容詞です。
もう少し詳しく言うと、例えば人生の中で仕事をする時間や家族と過ごす時間というのは、それらの時間が自分の人生を占めている、つまりOccupyしている状態と言えますよね。したがって、作業療法士というのは単に生活行為だけでなく、その方が生きてから死ぬまでのキャリアの中で、何に価値を置いているのか、どのような活動が占めている(occupyしている)のかを分析し、優先度の高いものから介入?支援をしていくというのが仕事なんです。
人によって、最も重要なものは仕事かもしれないし家族かもしれない。それが医療機関に入院されている方の場合には、最重要課題となることが麻痺した手足の機能回復かもしれないし、早く退院して生活を再建すること、父として一家の大黒柱という役割を果たすことかもしれない。その人が今置かれている環境によって、ニーズは多種多様です。そんな一人一人の人生を、何がoccupyしているのかを話し合い、分析して支援するというのが、作業療法だと私は考えています。
そして、先ほどのバイザーの先生の話に戻ると、大学に通っている4年間で価値観が変わってくるのは当たり前だと思うんです。18歳の時に選んだきっかけや想いを、ずっと持ち続けられる人というのはとても少ないんじゃないかな。
私の作業療法学科の同期でも、国家資格は所有しながらも作業療法士として働かない人もいます。それはおそらく、作業療法学科の学生は、自分の人生をOccupyするものについて考える機会や時間が、他の学科の学生さんと比較して多いからだと思います。
もちろんりほさんにも、言語聴覚士にならないという選択肢は本当にあると思いますよ。
なので、進路に困っている学生さんは、ぜひ作業療法学コースに来られると良いんじゃないかなぁと私は思っています(笑)
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なるほど、そうですね!(笑)
途中の作業療法についてのご説明、大変分かりやすかったです。涌嶋さんのお話を伺って、私がこれまで持っていた作業療法のイメージや捉え方が少し変わりました。
それと同時に、言語聴覚士も少し似ている部分があるのかなと感じます。やはり、障害されている複数の機能に対して、一気にアプローチすることは困難ですよね。だからこそ、それらに優先順位をつける時、単に最も障害されている機能を最優先とするのではなく、その方が生活場面に戻られた時を想像して、その方にとって今後最も必要となる機能はどれかという視点で考えることが非常に重要なのだと、今回の病院実習を通して改めて思いました。
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それはとても充実した実習期間を過ごされたと思いますよ。やはり実習では、どうしても手技や評価?検査、どのように治療をしていくかということに目が行きがちなんですけどね。
患者さんの目標というのは、日ごと、時間ごとに変わるものだと思っています。それを、コミュニケーションを通していかに汲み取れるかというのはとても大切だと考えています。
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では、次の質問に移らせていただきます。
県立広島大学在学中、最も印象に残っておられることや、大学卒業後に、県立広島大学で学んで良かったなと思われたことがあればぜひ教えていただきたいです。
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作業療法学科ならではということにはなってしまうんですが、「地域作業療法学」という授業がとても印象に残っています。
この授業の一環で、三原市内で地域活性化に取り組まれている方を講師にお招きするという講義がありました。ちなみに、当時私が講義を受けたのは、一般社団法人RoFReC(ロフレック)という、子どもたちにプログラミングを教える団体の代表、現在の三原市長 岡田吉弘さんでした!
地域の中で、「こういうプロジェクトを進めるぞ!」というような熱い想いを持った方々をお招きして講義をしていただくという機会は、県立広島大学ならではだと思いますよ。
自治体や市民の方、大学生、企業の方、経営者など、様々な属性の人が集まる授業があるというのは、県立広島大学の魅力の1つだと思います。
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ありがとうございます。
ではここからは、県立広島大学をご卒業されてからのお話をお伺いしたいと思います。
まず、現在は県立広島病院で働かれているということで、大まかに1日のスケジュールを教えてください。
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はい、だいたいこのような感じです。
朝は混雑する時間帯が苦手なので、少し早めに出勤して、8:30の始業までは自分のしたい勉強をする時間に充てています。
17:15に終業なんですが、私生活もしっかり充実させたいので、だいたい17:30頃には退勤していますかね。
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ありがとうございます。
では次に、先ほどお伺いした涌嶋さんのご経歴について、少し詳しくお聞かせいただけたらと思います。
新卒で入職されたのが、岡山県倉敷市にある「医療法人創和会 しげい病院」(以下、しげい病院)とのことだったのですが、なぜしげい病院に入職しようと思われたんですか?
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色々な要素があるんですが、大きく2つの理由があります。
1つは、先ほども述べた自分の価値観や作業、つまりoccupyするものを考えるという意味で、ワークライフバランスを重視したいと思いました。実際に働く環境や自分が価値を持つ作業の時間が確保可能なのか、など「リアル」な話を聞くことができるという点で、県立広島大学のOBOGの方がいる病院にしようと考えました。その結果、私は縁もゆかりもない倉敷市に行ったわけなんですが……(笑)
もう1つは、しげい病院には回復期リハビリテーション病院という一面もありながら、同じ病院の中に療養病棟や障害者治療病棟、訪問リハビリや訪問看護、通所リハビリなどの様々な部署があります。そのような環境は、患者さんが入院されてからご帰宅されるまでの一連の流れを学ぶために、とても適しているのではないかと思いました。
しげい病院での2年間の臨床経験から、患者さんがどのようにご自宅へ戻られるのかという想像力やプロセスを考える力が養われましたので、救急病院にいる現在もその経験がすごく活きています。
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なるほど、そうだったんですね。
今お話の中にあった、患者様が入院されてからご自宅に戻られるまでの流れを一貫して見たいというお考えは、在学中からお持ちだったんでしょうか?
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そうですね。やはり、“作業”の意味を知っていくと、どうしてもその方の人生に占める時間を考えるんです。
例えば、初期治療となる救急病院に入院される期間は本当に短い時間ですよね(全身状態の管理や疾患への治療が多科?多職種で行われるとても重要な時間です)。では、その後はどのようにしてご自宅に戻られるんだろう?、一度病気によって奪われてしまった時間をどのようにして取り戻していくんだろう?というところを考え、実践していくところに、リハビリテーションの意義があると思いました。なので、ご自宅に戻られるところまでをどうしても見たかったですし、それを支援するというのが、私なりの作業療法士像だったというのがあります。
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ありがとうございます、大変よく分かりました。
私も3年次ということで、そろそろ自身の進路についても具体的に考える時期なので、ぜひ参考にさせていただきます。
では、次の質問に移らせていただきます。
今回私が最もお伺いしたかったことでもあるんですが、涌嶋さんが患者様と関わられる上で、大切にされていることや、想いについてお聞かせいただきたいです。
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りほさんが事前に、1番聞きたいことだとおっしゃってましたもんね!(笑)
これについては、ここまでも所々お話ししてきたんですが、患者さんという一人の人がいて、病院であれば、その人の人生の一部分を我々に託していただくことになります。もっと具体的に言うと、患者さんが入院されている24時間のうち、20分や1時間という時間を使って、我々と様々に関わっていただくことになりますよね。加えて、患者さんがこれまで歩んできた人生は一人一人違うからこそ、目標とすることも人それぞれです。そんな患者さんの目標をいかに反映させたリハビリテーションができるか、ということをすごく大事にしています。
リハビリテーションと聞くと、どうしても身体機能を回復させる運動療法(スポーツ選手がするリハビリ)のようなイメージが先行しがちなんですが、私の中でリハビリテーションというのは、「在りたい自分や、目指すべき姿に近づく過程」のことだと考えています。もしかしたら、その中で受け入れなければならない障害もあるかもしれませんし、それは1か月や2か月という短期間ではなかなか解決できず、何年もかけて受容していく必要があるかもしれません。
このようなことを念頭に置いて、私たち療法士と患者さん、お互いの想いや価値観も違う中で、短い時間の中でも患者さんと目標を共有したり、効率的なリハビリテーションを進めたりすることはとても難しいですが、意義の高い仕事だと思っています。
また、これは作業療法の話にはなってしまいますが、作業療法士の介入というのは「人?環境?作業」の相互作用を考えながら行われています。 作業遂行、いわゆるパフォーマンスの部分には、人となりや心身の状態、囲まれた環境や経済的な状況、作業の目的ややり方といった複合的な要素が関わっています。多くの作業療法士が、この3つの円の中心にある作業遂行をいかに向上させられるかという視点から、患者さんとの関わり方について考えていると思います。
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私は自分の価値観や大切にしている考え方というのは、患者様に対する言葉がけや距離感といった何気ない場面で表れると考えています。
涌嶋さんがおっしゃる通り、療法士の皆様にも多様な考え方がおありだと思いますが、臨床の現場で日々患者様と関わられている先生方は、具体的にどのような価値観や想いを大切にさ れているのか非常に気になっていたので、今回お伺いすることができて嬉しいです。ありがとうございました。
では、次の質問に移らせていただきます。
涌嶋さんの今後の目標やご展望について、作業療法士としてという点だけでなく、どんな人になりたいかといった点でも、お聞かせいただけると嬉しいです。
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これを話し始めると日が暮れちゃうんですけど……(笑)
今までのキャリアも、置かれた場所でどのような経験値が欲しいかという観点で選択し、ここまで歩んできています。大学院もその1つで、私の中に欲しい要素や物事の見方があったからこそ、大学院に進学するという選択をしました。
そんな私が、これからどんな風なキャリアを歩んでいくんですか?と聞かれた時、現時点で明確にこれだと言えるものはないです。ただおそらく、「こんなところにも作業療法士がいるんだ!」という場所で働くんだろうなと思います。
ベースには作業療法の経験がありつつも、「涌嶋という人がいて、実は作業療法士の国家資格を持っているみたい。」というように、求められる場所で最大限の貢献をすることが私の目標です。
自分がこう在りたいという姿と、こうなりたいという姿というのは違うと思うんです。前者は、自分自身の内面や価値観、こんな人間で在りたいなという心理的な側面が反映され、後者は、職種やキャリア、資格?地位などの(履歴書に書くような)要素が強いと考えています。これらをどちらも大事にして、自分の価値観に嘘をつかないような仕事を、その時々で選択しながら生きていくんじゃないかなと想像しています。
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とても素敵ですね。自分という人から、職種の魅力を知っていただけたり、理解を深めていただけたりするというのは、とても理想的だなと思います。 作業療法士として、言語聴覚士として、どうなりたいかと考えることももちろん重要ですが、それと同時に自分が今後どのような人生を歩みたいかということも、大学生活の中で考えられると良いかもしれませんね。
では最後に、このページをご覧になっている学生さんに向けて、メッセージをお願いいたします。
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りほさんも先ほどおっしゃっていたんですが、保健福祉学部を目指す方や在籍されている学生 の方は献身的で、普段から相手のことを第一に考えている方が多い印象を持っています。
一方で、自分自身の人生も1度しかありませんので、もし自分がどんな将来を送るのか漠然とした不安を持っている方は、1度ご自身のキャリアについて考えを巡らせてみるのはいかがでしょうか。キャリアと言うと、仕事での昇進や転職のことを思い浮かべる方もいますが、それだけではなくて、結婚や出産、引っ越しなど様々なライフイベントも含めた人生こそキャリアだと思います。そのような視点で、「自分はどんな風なキャリアを歩んでいくんだろうか」と考えてみると面白いのではないでしょうか。
これは、早くから自分の人生について考えておいた方が計画的で良いという意味ではなくて、将来これがやってみたいから今こういうことをしようかな?と今の行動を考えるきっかけになるかもしれません…というのが私からのご提案です。
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はい、ありがとうございました!
インタビューを終えて
今回のお話は、これから作業療法士を目指す方にとって、大変有意義なお話だったのではないでしょうか?
インタビューを通じて、作業そのものの理解や、作業療法士という職種の捉え方が深まったなと感じます。涌嶋さんの素敵なお人柄も大変よく伝わってきました。
また、言語聴覚士としてという視点だけでなく、「どんな人で在りたいか」ということについても考えるきっかけをいただいたように思います。
この度は、ご多忙の中インタビューにご協力いただき、本当にありがとうございました。
涌嶋宏輔(わくしま こうすけ)さん
県立広島大学 保健福祉学部 作業療法学科 2020年卒業生
鳥取県出身
2016年4月 | 県立広島大学に入学。 |
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2020年4月 | 医療法人創和会しげい病院に入職。 |
2022年4月 | 県立広島病院に入職。 |
2023年4月 | 県立広島大学大学院 総合学術研究科 保健福祉学専攻 在籍。 |