最後のフィールド科学卒論発表会をオンラインで学内実施(2021年1月25日)その1
フィールド科学卒論発表会を1月25日に実施しました。新型コロナ感染拡大の影響で昨年に続いての学内オンライン開催となり、かつ最後の発表会となりました。例年のように市内での開催ができればよかったのですが、急拡大のためその願いはかないませんでした。本来、公開する予定の内容でしたので同意をいただいて公表します。なお、このフィールド科学卒論は今後県立広島大学?全学の地域課題解決研究に引き継がれます。なお、量が多いため、その1、その2に分けて公表します。
庄原産自生草本由来の染色繊維複合体の調製と活用 生命科学科 海老本里菜(青柳?福永研究室)
【目的】庄原市は広島県の14%に当たる広大な面積を有し,中国山地の山々に囲まれた盆地や平坦地から成る.この全市域面積の約84%を森林が占めており,水と緑に恵まれた全国有数の豊かな自然環境がある.それに加え,雑草と呼ばれる草本類も多く存在している.道路沿いに自生する草本植物は,主に道路整備のために年間2000万円(2016年庄原市)の支出をして刈り取られているが,有効活用されずに産業廃棄物として焼却処分されている.これらの植物の中には,ホソバハルシャギク(Coreopsis grandiflora Hogg ex Sweet以下CG)が含まれている.CGはキク科の多年草で,主に道路沿いや河川沿いに自生している.かつては地面の緑化などの目的に植えられていたが,繁殖力が強く,在来植物の生態系を撹乱する可能性があるオオキンケイギク(Coreopsis lanceolata L.)と同様に扱われている.現在では特定外来生物に指定され,広島県や千葉県をはじめとする日本全国の自治体で駆除が推奨されている.刈り取られたCGの花弁を草木染めに使用する事例(徳島県)は報告されているが,それ以外の大部分を占める茎部を活用した事例はない.そこで,本研究では未利用である茎に注目し,繊維を紙として利用することを試みた.「光に透かした時に見える繊維が不均一で,風合いから自然を感じられる」,「光を当てた時とそうでないときで色調が変わる」という2点から,和紙などからも作られている高付加価値の利用の一例としてランプシェードへの利用に注目した.CGの茎部の繊維から紙試料を調製した後,花の色素で紙試料を染色し,付加価値を上げてランプシェードの素材を得る.駆逐対象であり,焼却処分されていた未利用の植物素材を活用し,価値ある“モノ”の作製を試みた.【実験方法】(1)紙試料の調製: 2 cmに切断したCGの茎部に,液比1:10,2%水酸化ナトリウム水溶液を加え,90 min還流した.中和後,繊維にイオン交換水300 mLを加え,ワーリングブレンダー(37BL97, WARING Co.)を用いて8400 rpm, 1 minで解繊(繊維を裂いて解す工程)をした.解繊した繊維に対し,ポットミル(NITTO KAGAKU Co.)を用い,200 rpm, 90 min,セラミック磁性ボール重量545 gで叩解(繊維を叩き解す工程)した.100 meshのステンレスフィルターを取り付けた成型装置を用いて抄紙(水中で繊維を分散させた後,繊維を自然に沈降させて成形する工程)した.加熱乾燥後,試料を回収した.(2)染色紙の調製:CGの花弁を抽出し,染色液を調製した.(1)で得た紙試料に染色液を加え,72 ℃,15 minで染色を行った後,10 minで水洗し,72 ℃,15 minで媒染をした.媒染後,再び10 minで水洗を行い,風乾させて染色紙を得た.また,アントシアニン系の色素で赤を表現するためにイロハモミジ(Acer palmatum Thunb. 以下AP)の葉を用いて染色紙を得た.(3)ランプシェードの作製を行った.
【まとめ】(1)CGの乾燥茎9 gから24 cm×24 cmの正方形でシート状の紙試料4 gが得られた.有効利用率は44%であった.(2)CGの色素を用いて得た紙試料は明るい橙系の色,APの色素を用いて得た紙試料は明るい灰みの赤系の色に近くなった.またどちらの紙試料も光で紙照らすと,不均一な繊維の様子が見られた.(3)調製した染色紙とLEDランプ(BF-AL05N-W, Panasonic Co.)を用いて,Φ100 mm×高さ160 mmのランプシェードを装着した照明器具を作製した.それは,光の有無で色調だけでなく,繊維による表面の風合いの変化も楽しむことができた.
ネオニコチノイド系農薬散布時における作物防壁の効果と河川流出の評価 生命科学科 大元魁人(西村?甲村研究室)
【目的】近年減農薬による栽培が行われている.しかし,近隣での農薬散布により,無農薬で作ったはずの野菜から農薬が検出されたという事例が存在する.そのことから,農薬散布時の周囲への飛散の影響や,作物を含めた散布圃場内での農薬濃度の消長について調べた.対象農薬は,近年問題視されているネオニコチノイド系(以下ネオニコ)農薬を選定した.ネオニコ農薬は,安価であり,高い効果を示すため多用される傾向にある.しかしながら残留性の高さが指摘されている.特に影響が大きいとされるミツバチは約100種類もの農作物の結実に関与しているとされ,ミツバチが存在しなくなるとすると,全世界で約20兆円以上の経済的損失があるとの報告がある.また,島根県宍戸湖では本農薬の流出により,二ホンウナギが激減した報告もある. 本研究では,農薬の飛散防止のため,とうもろこしを防壁にしたときのドリフト軽減効果を調べた.さらに,県北河川水中の残留農薬濃度を調査した.【方法】1)食用とうもろこしを2021年6月17日に2条で定植栽培し8月20日の時点で1.67mに成長したとうもろこしを防壁とした.畝の片側から農薬を散布し,どの程度の距離まで拡散したか,土壌残留量をもとに調査した.サンプリングは,散布直下と距離2,4,8m地点とし,各土壌から抽出した農薬をLC/MS/MSで定量した.2)河川中の農薬濃度は,西城川と芦田川のそれぞれ上流域で西城町,庄原市や世羅町市街地を挟んだ3地点から,2021年3月~12月の月2回ずつ採水した.その後固相抽出処理し,LC/MS/MSで定量評価した.3)庄原市で使用されるネオニコ農薬の量を把握するため,JA庄原で農薬の出荷状況について聞き取り調査を行った.【結果及び考察】1)防壁を施した地点ではドリフトは確認されず,施していない地点ではドリフトが確認された.ドリフトが確認された最も遠い距離は8mであった.本研究により,背負い式散布機で散布した時,とうもろこしを防壁に用いることで,ドリフト軽減は可能であると考えられた.2)西城川からは,7月に比和大橋地点でクロチアニジン1成分,芦田川からは5~8月の世羅市街地の中流,下流部でクロチアニジン,チアメトキサムの2成分が数回検出された.各河川で検出された成分の最高濃度について,環境省が定める基準値と比較し,表1に示す.県北河川に含まれるネオニコ農薬は基準値に比べて低いことが明らかとなった.
表1 検出された成分と最高濃度及び基準値 (単位はµg/L)順に 河川 成分 最高濃度 基準値 西城川 クロチアニジン 0.023 2.8,芦田川 クロチアニジン 0.0095 2.8,芦田川 チアメトキサム 0.0045 3.5 3)庄原市のネオニコ農薬出荷量で一番多かった成分はジノテフランであり,旧庄原地域で5448kg,北部地域で3668kgであった.中でも,ラブサイドスタークル粉剤DLは旧庄原地域で3663kg,北部地域で2067kgであった.西城川からジノテフランの検出はなかったが,半減期も早いため,適切な散布をされているのか,または河川中で分解しているのかまでは特定できなかった.
【まとめ】背負い式薬剤散布機による小規模な農薬散布の場合,ドリフトはとうもろこしの防壁により軽減可能であると考えられた.また庄原地域では河川に残留するネオニコ農薬濃度が低いことが明らかになったが,低濃度でも生物に影響する報告もあり,今後も動向を見極める必要がある.
フィールド科学卒論 オンライン発表会の様子
発表者 順に濱田、海老本、青島、大元