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動物は多数の細胞からできています。それぞれの細胞が異なる働きを持ち、しかもそれらが全体として統制のとれた役割を果たしています。その統制がとれなくなってしまうのが「がん」という病気です。
しかし動物は、10億年ほど前、一つの細胞だけからなる単細胞生物でした。一体どのような魔法を使えば、単細胞生物が多細胞生物に進化できるのでしょうか?
そこには遺伝子レベルの大きな革命があったはずです。例えば、細胞同士を必要に応じて接着させたりバラバラにしたりする大がかりな仕組みが進化しなければなりません。そうした仕組みは、これまで存在しなかったものですから、生物にとってそれを新たに作るのは大仕事です。そのような大仕事がどうやって達成されたのか、まだほとんどわかっていません。
生命科学コース博士課程の傳保聖太郎さんと日野礼仁さん、指導教員である菅教授は、単細胞生物カプサスポラに着目し、その謎の一端を解明しました。その成果の一部が、日本の科学雑誌に掲載されました。
傳保さんは、カプサスポラのラミニンという遺伝子に着目しました。ラミニンは、動物では、皮膚の直下で細胞を物理的に支えるとともに、皮膚細胞からの信号を体内に伝える組織である基底膜を構成しています。傳保さんは、カプサスポラのラミニンが、細胞同士を一時的に接着するのに役立っていることを発見し、単細胞生物と多細胞生物との間に横たわる大きなギャップを埋めることに成功しました。そこから、動物の祖先である単細胞生物は、危機的な環境に対応するために隠し持っていたメカニズムをうまく利用して、多細胞化を達成したのではないか、という大胆な仮説を導き出しています。
カプサスポラ細胞 - 巨大な群体を一時的に作りますが、その仕組みはよくわかっていませんでした
詳しくは是非雑誌の記事をご覧ください。
なお本研究は、基礎生物学研究所(愛知県岡崎市)の阿形清和教授と、黒木義人氏との共同研究です。
県立広島大学は科学技術週間に参加しています