ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
現在地 トップページ > 庄原キャンパス > 【生命システム科学専攻】 博士課程後期2年の中西寛弥さんが筆頭著者の卵巣のSREBPが誘導する新規コレステロール性合成経路の活性化機構に関する論文がEndocrinology誌に掲載されました。

本文

【生命システム科学専攻】 博士課程後期2年の中西寛弥さんが筆頭著者の卵巣のSREBPが誘導する新規コレステロール性合成経路の活性化機構に関する論文がEndocrinology誌に掲載されました。

印刷用ページを表示する 2021年10月4日更新

博士課程前期2年の中西寛弥さん(指導教員:動物生殖生理学研究室 山下泰尚准
教授
)の卵巣のSREBPが誘導する新規コレステロール性合成経路の活性化機構に関する研究成果がEndocrinology誌に掲載されました。

LH Induces De Novo Cholesterol Biosynthesis via SREBP Activation in Granulosa Cells During Ovulation in Female Mice.

Nakanishi T, Tanaka R, Tonai S, Lee JY, Yamaoka M, Kawai T, Okamoto A, Shimada M, Yamashita Y.Endocrinology. 2021 Nov 1;162(11):bqab166.

doi: 10.1210/endocr/bqab166.

[解説]

哺乳動物では,性成熟 (二次性徴)を迎えると,脳の下垂体からFSHが分泌され,卵巣の顆粒膜細胞に作用すると卵胞発育が誘導されます。その後,下垂体から一過的にLH (LHサージ)が放出され,顆粒膜細胞に作用し,コレステロールからの急速なプロゲステロン産生と成熟卵子の排卵が誘導されます。通常末梢組織で使用されるコレステロールは,生体内のコレステロール同化組織である肝臓で産生され,これがリポタンパク質(HDLやLDL)などにより運搬されるため,卵巣でも肝臓由来のコレステロールがプロゲステロン産生に使用されるというのが通説でした。

 動物生殖生理学研究室では,卵胞発育と排卵を誘導する重要因子を探索することを目的に,eCG(FSH様作用を持つ)およびhCG(LH様作用を持つ)の刺激により顆粒膜細胞で発現する遺伝子を網羅的に解析しました。その結果,肝臓でコレステロール生合成を制御する転写因子Sterol Response Element Binding Protein (SREBP)がeCG 投与後の顆粒膜細胞に高発現していたことから,卵巣は肝臓と同様にSREBPにより新規コレステロール合成が生じるコレステロール同化組織である可能性がでてきました。

  肝臓では,生体内のコレステロール量が低下すると,SREBPに正の制御因子であるSCAPが結合し,2量体を形成します。その結果,SREBPのN末端が核内に移行し,コレステロール生合成酵素群 (HMGCR, CYP51, DHCR7)の発現を上昇させます (図1)。逆に,生体のコレステロール量が増加すると,SREBP-SCAP複合体に負の制御因子INSIGが結合し,SREBPのN末端の放出が生じないため,コレステロール生合成が抑制されます (図1)。SREBPは,肝臓において上記の役割を担っていますが,卵巣で発現するSREBPとその制御因子(SCAP,INSIG)が肝臓と同様にコレステロール生合成を制御するのか,新規生合成されるコレステロールがプロゲステロン産生に寄与するかはわかっていませんでした。

nakanishi1

 本研究では,まずSREBP,SCAP,INSIGが顆粒膜細胞で発現し機能しているのかを調べた結果,hCG刺激前(eCG48h)の顆粒膜細胞では,SREBP, SCAP, INSIGが発現し,3量体を形成し,コレステロール生合成経路の酵素発現が抑制されていること,hCG刺激後の顆粒膜細胞では,INSIGが消失し (図2),これと同時に,SREBPのN末端が放出され,顆粒膜細胞の核内に移行し,コレステロール新規合成が促進され,プロゲステロンが産生されていることが明らかになりました(図3)。

  nakanishi2

 

  さらに,SREBPの活性化阻害剤 (Fatostatin)をマウスに投与すると,コレステロール量およびプロゲステロン量が低下し (図4),排卵が70 %以上抑制されていました (図5)。この排卵数の低下は減少したプロゲステロン量が原因であると考えられたため,Fatostatinを投与したマウスにプロゲステロンを投与した結果,排卵数が回復することを明らかにしました。

nakanishi4

以上の結果から,卵胞発育期の顆粒膜細胞においてSREBP, SCAP, INSIGが発現すること,その後,LHサージによりINSIGの消失とSREBPのN末端放出が誘導されることが排卵に必須であることが初めて明らかになりました。

これらの結果は,SREBPとその正の制御因子のSCAPと負の制御因子のINSIGがFSHよLHにより高度に制御され,排卵を誘導していることを示しています。このことから,卵胞発育期におけるSREBPとSCAPの発現不全は排卵障害となる可能性があり,卵胞発育期のINSIGの発現不全は早期黄体化を誘導する可能性があります。また排卵期におけるINSIGの消失不全は,排卵不全や卵巣嚢腫などの原因となる可能性があることも示唆しています。これらの疾患は,ウシやブタなどの産業動物においても認められますし,ヒトにおいても不妊症の原因であることが知られています。したがって,本研究成果は,今後獣医畜産分野およびヒトの高度生殖補助医療分野に貢献することが期待されます。

動物生殖生理学研究室 博士課程後期2年 中西寛弥,准教授 山下泰尚